2025年8月14日に発生したヒグマ人身事故以降閉鎖されていた知床連山の登山口の閉鎖が10ヶ月半ぶりに解除され、待ちに待った多くの登山者が羅臼岳の山頂を目指しました。
羅臼岳山開きの安全祈願のセレモニーは例年通り午前6時に岩尾別登山口を一段登ったところで開催されました。登山口自体はその時間以前に閉鎖が解除されていたので登山者は登ることができました。羅臼岳の山開き自体はこれまでも7月第一日曜日午前6時に開催されてきました。山開きのセレモニー前の入山について批判的な意見をする方がいるようですが、事故以前であれば春の岩尾別温泉道路の冬季閉鎖解除の残雪期から自由に入山していましたし、セレモニーの時間前から入山するのは普通のことでした。そうしなければ行動時間が11時間前後になる羅臼岳を安全に登山できませんから。羅臼岳山開きのセレモニーは、残雪期の登山技術の要素は少なくなり、夏山シーズンがはじまる、というタイミングで設定されたもので、入山自体を規定するものではありませんでした。平成の最初の頃までは斜里町で町民登山も行われていましたが、実は環境的には今よりも厳しく、7月上旬は大沢は全面雪渓でした。私 滝澤がガイドをはじめた2003年から2010年代前半あたりまでは6月に降雪があったり、7月上旬まで大沢の雪渓の急傾斜にはロープをフィックスするのに50mロープ2本とスノーピケット数本を担いでいます。今は6月には大沢の大半の登山道が露出しています。
滝澤の所属する斜里山岳会は羅臼岳山開きの際は一番最後に入山して一番最後に下山するということで安全登山のための巡視を行なっています。今年は山岳会に知床財団や知床博物館の学芸員を交えたパーティーで積極的に巡視していました。私は環境省から受託した登山道管理の作業もあるので別行動でしたが、下山中の足首捻挫のかたの応急手当や、落とし物を預かってすれ違う登山者に声がけしたり、ヒグマを目撃したという方からの情報をいただいたりと、登山道管理の仕事より忙しかったです。。。
大沢の雪渓は大沢入口から第一の岩場の下まで残っていますが、傾斜は緩く登山道も断続的に露出しています。
第一ノ肩の雪田はまだ急角度で雪がついています。下部に岩石が露出してきます。雪田の奥まで水平に移動してから、ほぼ垂直に登っていく、イメージとしてL字型に歩行していけば、滑落しても岩石に激突する可能性は軽減できます。そのためにルート旗を雪面に打ち込んでいます。
環境省の登山道管理作業として7月3日にルート旗10本を打ち込みましたが、5日の登山初日だけで6本の旗が折られていました。滑落や登降中につかんだ時に折っているようです。登山者の足元を見てみても靴だけで残雪を処理できるキックステップを切ることができる登山靴を履いている方はほとんどいませんでした。アイゼンやチェーンスパイクを装着している方もいましたが、装着方法が悪く間に雪が挟まっていたり、グラグラしていたり、サイズが合ってなかったりで、ゾワゾワしました。ピッケルを用意するなど滑落対応できている方は数えるほどで、知識や準備ができていると思われる方はわずかでした。
そもそも、登山口が閉鎖されて一般登山者が入山できず、登山ルートの残雪をはじめ情報が得られない中で、ヒグマ対策として巡回はしても、その際に得られた情報を提供する、それもタイムリーに、ということの必要性について関係機関は想像力が働いていないようでした。しかたがないので7月1日に知床山考舎で登山道の状況についてブログで公開しましたが、登山者からはこれを見られたので雪への対応をしてきた、という複数名の方に声をかけていただきました。
https://info.trek-shiretoko.com/?p=14273
登山口の閉鎖解除の時間も公開されていなかったので、一般的な入山時間に比べて遅い時間からの入山も多かったように感じます。
2日になって環境省の公式のウェブサイトの公開が始まりましたが、登山者目線とは食い違う内容が散見され、明らかな間違いも見られます。そして、関係行政機関からのリンクが不十分で、このサイトに辿り着くこと自体が現状で難しい。。。
https://policies.env.go.jp/park/shiretoko/trekking/
現地に設置された掲示物や入山時に記入を求めているチェックシートも、登山者視点で考えられていないのでわかりづらかったり、登山口に到着してからそれを見て対応を求められても困る、という内容もあります。何よりも、昨年の事故の際に問題点として指摘されてきた、何を伝えたいのか分かりづらい、ということが相変わらずです。いかにも行政の会議資料然としたものがラミネートされて表示されている状態です。このシーズンで様子を見ながら来シーズンに向けて改善していく、と言ってくれていますが、登山関係者を公式な形でアドバイザーに加えてほしいものです。
関連する事象ですが、知床国立公園内はヒグマ対策として車中泊をしないよう誘導しています。しかし、登山口閉鎖解除前日の7月4日19時には登山口周辺の駐車スペースはキャンピングカーも含め満車状態となっていました。朝になってから到着した登山者の車両は町道岩尾別温泉道路沿線に並んでいき、過去最長に近い状態になりましたが、道幅が狭いので緊急時などの大型消防車両などの通行に支障が出ることが予想される状態になりました。日本百名山でもある羅臼岳を登りたい者にとって、ひとシーズンおあずけになっていたわけで、多くの登山者が集中することは予想しておくべきだったでしょう。
ヒグマ対策の準備期間として10ヶ月半かけた結果として、関係行政機関のヒグマ対策としての準備はできたのかもしれませんが、登山者の旅程や装備選択など計画作成や準備に支障を生じさせたことは、山岳遭難対策にはマイナス面があったことを反省としてほしいと考えます。
(滝澤:知床山考舎 代表)





